暗黒騎士団剣文録

ペンが剣より強いのは、君との距離が近いから。

やがて君になる4~5巻総括 

 お久しぶりです、旧ヶ丘速贄です。

 先月27日に待望の第5巻が発売された『やがて君になる」。未だ興奮冷めやらぬままの状態ですが百合部トークショーダ・ヴィンチ百合特集、百合展2018、多分今年もあるであろう電撃コミック祭サイン会と、今後やが君関連の予定は盛り沢山。ならば熱い内に槌を持っておいた方が良いなと判断し、こうして筆を執らせていただく運びとなりました。結局どっちを持ってんだよ。

 

 以降、『やがて君になる』本編5巻収録分までのネタバレを多分に含むので未読の方はブラウザバック推奨。――というか各種端末を閉じて書店に走れ。

……いや、2018年ともなれば各種端末を開いたまま買い物くらいできる時代ではあるのだろうけれど、やが君は帯と背表紙の破壊力が凄まじいので是非ナマで集めてずらっと並べてみていただきたい。合法でアガれるので。

 

 

 

 

 ここから本題。4巻及び5巻は生徒会劇を中心とするストーリーとして繋がっており、(おそらく6巻も)『文化祭篇』として一纏まりになった構成なのだろう。

 なので前回の記事のように思い付いた事、考えた事をやたらめったら並べていく手法は取りにくいと判断し、本記事では七海燈子と小糸侑について述べながら4巻の内容について考えていく前篇と、5巻を1話ずつに分けて気付いた事を記していく後編の2章構成でやっていきたいと思う。

 前回の記事についてもある程度関連付けた上で書いていこうと思っているので、未読の方は是非目を通していただきたい。

kskitaminz.hatenablog.com

 

 俺自身も読み直してはみたのだが、どうにも原稿進捗がヤバくて不安定な時期に書いたものなので突然キレたり錯乱し出したりたりしていてだいぶ面白いし割と恥ずかしいですねこれ。先に原稿をやればよかったのでは?

 今回は多分大丈夫でしょう。やっていき見せてくぞ。

 

 

七海燈子が目指したもの、求めたも

 

 例によって最初に語るべきは七海燈子の事になる。初っ端から重さが過ぎるが、七海の話をしないと始まらない作品なので仕方がない。
 4巻では、意図的に七海の内面が隠されていた1~3巻までと比べて彼女の視点や心境の情報が良く落ちた。前回の記事の中で「七海燈子が『どこまで解っているのか』『どこまで解っていないのか』がこの作品のキー」と述べたが、実際に彼女はどこまで解っていたのだろうか?彼女の視点から明かされた情報に基づいて纏めていこう。

 

侑は私が何をしてもしなくても
きっと本当のところで興味なんかないんだ (4巻79頁)

 

……私が知ってる姉はなんていうか
なんでも自分で完璧にこなせて 憧れでした
……そんな姉の姿は知らなかった (4巻123頁)

 

……沙弥香知ってたの
姉のこと (4巻132頁)

 

 なんも解ってなかった……

 小糸が自分に向け始めた感情にも気付かない、姉が自分以外の前では完璧でも特別でもなかった事も知らない、佐伯が自分の過去を知りながら隣にいてくれた事も知らない、それどころか遺されたものを全てやり遂げて姉の足跡が途絶えた後、自分がどうすればいいのかも解っていない。

 3巻時点では「七海燈子が全部解った上であのムーヴだったらどうしよう……」と怯えていたものだが、まさかここまで解っていないとは……。

 これは別段七海燈子が鈍い奴だとかそういう訳ではなく、単純に周囲に気を向ける余裕がないからなのだろう。七海は割と自分本位な動きの多い女だけど今言いたいのはそういう事ではなく、七海が内に抱えた「本来の自分」「七海澪の代替としての自分」という二面性の間に生じる乖離や矛盾に対し、自身の中で折り合いを付ける事にリソースを割いている分他人の事に気付きにくいだけなのだと思う。周りがみんな鋭い人ばかりなので相対的に鈍く見えるってのもまぁあるっちゃあるんだろうけれど。

 

 七海が周りに目を向ける余裕を持っていない、という事は4巻表紙や第21話においても描写されている。

 やが君本編においてしばしば、『好き』や『特別』といった感情が例の丸くてチカチカした小さな光で表現されている事は最早言うまでもないだろう。

 4巻表紙や第21話でその光の役割を果たしている存在こそが『線香花火』だ。表紙でも21話でも、七海は自分の手元の花火にしか目線を向けていない。特にそれが顕著なのが132~133頁における一連のシーン。隣に居る佐伯と会話しているのにずっと自分の手元の光を注視している七海が印象的で、自分の光が消えかねない程のリスクを冒してまで一歩踏み込んだ佐伯との対照が際立つ。

 この時は自分のイメージしていた姉の姿がかなり大きく揺らいでいたのでそっちの処理に必死ではあったのだろうけれど。彼女の持つ二面性が彼女を彼女たらしめている所はかなりあると思うので、文字通り自分と向き合う時間が人一倍必要なんだろうな、と。他人に興味がないとか理解するつもりがないとかではなく、そっちにまで手が回らないだけ。

 

 七海が持つこの二面性はやが君本編において大きな重要性を持っており、それについて切り込んでいったのがこの4巻だ。ただこの七海の二面性、皆さんご存知の通りひっっっっじょーーーーに繊細でややこしい問題であり、あちら立てればこちらが立たぬというか、片方を肯定しようとするともう片方がそれを阻むというか……とにかく複雑を極めている。

 ただ、このややこしい二面性が両方あってこその『七海燈子』ではあるのだ。きっかけはどうであれ姉の模倣をして生きていく事を決めたのは七海自身だし、実際に七年間姉に近付こうと努力してきたのも七海自身。その七年間だって、ちゃんと七海燈子の人生の一部として肯定されて然るべきではないだろうか。

 素の七海燈子を肯定する為に姉の模倣をしていた七海燈子を『無駄だった』『間違いだった』『意味のないものだった』と否定してしまったら、それは本当の意味で七海燈子自身を肯定した事にはならないし、逆もまた同じ。七海はずっと姉の影を追いかけて生きてきたのかも知れないけれど、それでも七年間生きていたのは『七海澪』ではなく『七海燈子』なので。どれだけ矛盾していて、相容れないものであったとしても、その両面を肯定する必要がある。

 今の七海に必要なのは自由の拡張なんですよ。視野を広げるというか……『誰かにならなきゃ駄目』と『誰かになりたきゃなればいいよ』では例え結果が同じだったとしても意味合いが全く変わってくるので。

 ていうかそもそも七年間ですよ? 小5から高2までの七年間、多感多情な少女時代に抱き締め続けていた姉の姿を、「自分の事好きになれたんでもう大丈夫で~す」なんてあっさりさっぱり手放してそれっきりなんて出来ると思いますか?! いや俺は心理関係の知識を齧ってる訳でも舐めてる訳でも飲み込んでいる訳でもないので断定する事は不可能なんですが、それでも七海燈子だぞ?あいつそんな器用な女じゃねぇよ。 まるで七海の事なら解ってるみたいな口ぶりはやめろ。

 

 そんな訳で、今後生徒会劇がどういった方向に転がったとしても七海の持つ二面性とはもうしばらく向き合っていかなければならないんじゃないかな、と考えてます。そもそも小糸が変えたがっているのは自分の事が嫌いな素の七海の方で、2巻の頃みたいに「演技をやめて素一本でいて欲しい」と言っている訳ではないので。

 では実際に七海の内面とどう折り合いを付けていけばいいのか。個人的には二人の人間が必要だと考えている。素の七海と姉を演じる七海――小糸の言葉を借りるなら「弱い自分」と「完璧な自分」。その二面性に触れる事の出来る二人の人間が。

 まぁ身も蓋もなくぶっちゃけると小糸と佐伯なんですけど。

 小糸は弱い七海の心の拠り所となっていて、佐伯は完璧であろうとする七海を隣で支えてきた。要は視点と立場の違う二人で両面から押して真っ直ぐ立たせよう、というやり方。佐伯と小糸は七海に対して取れる立場も持っている情報も結構異なるので、二人で上手い事シェアして協力したらだいぶ七海のメンタルも安定すると思うんですよね。まぁそれに至るまでに険しすぎる壁が何重にも存在するんだけど……

 それでも二人は手を組んだ方が何かと良いと思うので、どうにかなっては欲しいんだけど……佐伯、佐伯なぁ……ほんまこっからやぞ……

 

 七海燈子と向き合うのに二人の人間が必要、という根拠は4巻中にも示されている。

 注目すべきは第20話。それまでTLのオタクに散々10歳児扱いされていた七海が、男子中学生へとランクアップを遂げた伝説の回だ。(アップなのか?)

 

 取り上げるのは問題のシーンではなくその後の3人並んで寝る場面。

「暗すぎない?なんにも見えないんだけど」

「私真っ暗じゃないと寝られない派」

「私は小さい電気点けとく派」

「わたしは消す派です」

「多数決ね」

「えー…」 (4巻103頁)

 

 ご存知の通り、やが君本編において七海燈子の言い出す我が儘は異常な程の確率で通っている。応援演説の担当、自分との関係、生徒会劇の復活、果てはドーナツポップ最後の一個に至るまで全て彼女の思うがまま。前回の記事でも「七海の言動が『やがて君になる』のストーリーを動かす核になっている」と述べたが、彼女が言い始めたりやり始めたりすれば本当にその通りに物語が進んでしまう。

 そんな圧倒的な力を持つ七海の我が儘が、「作中で初めて通らなかった」のがこのシーンなのだ。

 

「たかが常夜灯一つで大袈裟な……」と皆さんが今思っている事はお見通しなのだが、ちょっと待っていただきたい。

先程「やが君においては『好き』や『特別』と言った感情は小さな光で表現される」と述べた事を覚えているだろうか。覚えていようがいまいが、聡明な皆様方ならもうお気付きの筈だ。常夜灯もまた『小さな光』である事に。

 つまるところ、「光に関する事柄で七海燈子から一本取った」という事実は皆さんが考えているよりもずっと重要な意味を持ち、これは「二人で協力すれば七海相手でもなんとかなる」という事実の裏付けに他ならないと言えるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……まぁ半分くらいただのこじつけなんですけれども!

 ちょっと頷きかけてくれていたら嬉しいです。

 いや、でも大事だよこじつけは。百合オタクはこじつけ、捏造、深読み、危機察知あたりのスキルを磨いていかないとやっていけないですしね。極論どんだけ強引な物言いしても相手を納得させさえすれば勝ちなんすよオタクの世界は。

 

 半分くらい無理矢理結び付けたのは否定できないんですけど、やが君を読む上で『光』に注目するのは本当に大事だと思いますよ。星や線香花火、常夜灯の他にも今後様々に姿を変えて現れるでしょうし。

 三人全員が『三人でよかった』と思っているのも事実なので、三人が『三人』である事については今後何かあるだろうな、とは睨んでます。こじつけではあるけれど適当書いたつもりはないのでそこんとこは。

 

 

 最後に103頁繋がりの話なんですが、布団を横向きに掛け髪の毛を後ろに流して寝る七海燈子、ぱっと見シルエットが十字架っぽくて最初見た時ゾッとしましたね。

 第十話といいこの女、かな~~り悪い方向で十字架と親和性があるので……

 

 

 

 

小糸侑の『変化』と『選択』

 

 長々と語ってしまったが、そろそろ4巻については纏めておきたい。実を言うと、4巻の内容を纏めるのはさほど難しい事ではないのだ。

「『やがて君になる』4巻はどんな話だったのか?」と人に問われても、1行で完璧に返答できる。「小糸侑の『選択』の物語」と。

 

 小糸侑は作中で一貫して、『選択するのに時間がかかるキャラクター』として描かれている。告白に返事をする時も、所属する部活を決める時も、果ては合宿に持っていく寝巻を選ぶ時ですら「決めるの遅い」と言われてしまう始末だ。

 しかしその分一度決めた後の行動力については、作中で付き合いの長い人物から何度もお墨を付けられている。

中学だってソフトボール部誘われて入っただけなのに

結局レギュラー取ってたし (1巻 145頁)

 

やりだしたらハマるタイプだよね (同上) 

 

あいつ何かやり始めたら心配ないんだけど

決めるまではひたすら悩むからなー (3巻 56頁)

 

ソフトボール部には私に誘われたからって感じで入っただろ?

それであんなに頑張れるのが侑のすごいところだけど… (4巻 69頁) 

 

 そんな小糸侑が七海燈子を変える事を『選んだ』というのが4巻の肝。

『わたしも変わりたい』から『あの人を変えたい』へ。

「心臓が選んでくれたらいいのに」と思いながら消したプラネタリウムを、自分自身の意思で選びながら点ける。

 『まだ大気圏』で七海から貰ったプラネタリウムを、『気が付けば息もできない』で点ける事の意味ですよ。「わたしもいつか届いたりするのかな」に対する完璧なアンサー。天井ではなく自らに星の光を映す小糸侑……。

 

 

 

やがて君になる 5巻表紙 

 

 ここからは後半戦。第5巻の内容を1話ごとに区切り、気付いた事について書いていきたいと思う。まずは表紙から。

 

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一番最初に気付いたのは、1~4巻と違い七海と小糸の立ち位置が入れ替わっている事。ただし今回は背面からの構図なので、1~4巻と同じように正面側から見た場合位置関係が逆転し、従来通り小糸右、七海左の構図になる為相違点としてはちょっと微妙な所か。

 ただ、どうして背面側からの構図にしたのかについてはある程度こじつける事ができなくもない。

 漫画は縦書き文章の書籍なので、原則として右から左へとストーリーが進む形を取る。なので七海の手を引いて先へと導いていく小糸を左側、つまり物語が進む方向に置きたかったのかな、とか。

 帯文が白くなった事についてはちょっとまだ考察不足……1~4巻が小糸のモノローグ的な文言だったのに対して 「ここではない場所へ。」が小糸から七海に送られたような言葉である事の対比?

 ていうか帯見る度に電撃コミックスフェア応募しなきゃな……とは思うんだけど結局まだ応募券に手を付けてすらいない……。

 

 

第23話 終着駅まで

 注目したいのは35頁。「亡き姉の足跡が途切れた時自分はどうなるのか」と思い悩む七海の後ろで無慈悲に表示される『終点まで先着』の文字列。正直言って初めて気付いた時思いっきり鳥肌立ちました。

 怖いんですよね、この作品。背景が『怖い』。

 人物の心情や台詞が丁寧に描かれている分、心を持たず言葉を発さない背景が時にすごく冷酷に見えるというか。降りる遮断機、片方だけ開いた窓、『とまれ』の道路標識、その他諸々……。

 背景を上手いと思う事はあっても『怖い』と感じるのは初めての経験なので、脳が処理し切れずによくバグります。かと言ってキャラクターに目を向けると全員顔が良すぎて気が狂いそうになるし台詞に目をやるとエモ過ぎて心が苦しい。逃げ場がない。詰みでは?やがて詰みになる。

 

第24話 灯台

 

水族館デート回。だいぶしんどい話続きだったので本誌で見たときも癒しだった記憶がある。

メンダコやチンアナゴウミウシなどを推されるので仲谷先生は海洋生物がお好きなのかな?と思ったのですが、エクレア青ではケモ耳が好きというお話をされていて、ご本人のイラストは鳥類でいらっしゃるので完全に脳の処理が追い付かなくなってきた、これ実質仮面ライダーオーズでは?

フォロワーのオーズのオタク、八割くらいやが君のファンでもあるので多分属性的な相性が良いんだと思う。皆さんも騙されたと思ってオーズ観てください。俺は騙してるつもりないけど……。

 

本題に戻ります。

七海燈子、『「好き」って暴力的な言葉だ』『「好き」は束縛する言葉』という自覚があるのに「好きって言うと安心する」とかさらっと言えちゃうのだいぶヤバいんですよね。それだけ小糸に対する甘えがあるって事の表れなんでしょうけど、自覚があるのに悪意がないのほんと……

 

七海燈子、水族館来てるのにずっと小糸の方見てたり、最初「メンダコってなに」のレベルだったのに帰る頃にはメンダコの縫いぐるみ撫でてたりするの、ほんまそういう所やぞ……という感じです。こいつ……

 

24話と13話、対比になっているシーンが非常に多く、並べて読むと面白いのでオススメです。

 

 

第25話 憧れの着地点

 これ以降は夜書きます。しばしお待ちを……

 

第26話 共演者

 

第27話 怖いものひとつ

 

第28話 願い事